うつ病からの脱出ー過食症 1ー

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今回は過食症がテーマです。

著書『なぜあなたは食べすぎてしまうのか 低血糖症という病』から下記抜粋します。

- 食べて吐くのがやめられない! -

山田ゆりさん(仮名)20

ゆりさんは、一見おとなしく人見知りする印象の専門学校生です。

17才のときにクラスの男の子に体型のことでからかわれたのがきっかけで、ダイエットを決意しました。もともとまじめな性格で、なんでも真剣にとりくむタイプのゆりさんは、厳格にカロリー計算をおこない、食べる量を減らしました。とくにカロリーの高そうなお肉や油っこいものを控え、カロリーの少ないこんにゃくや野菜をおもに食べるようにしていたそうです。ダイエット前は身長156 cmで55kgでしたが、かなりがんばってダイエットをした結果、半年で42gまで減らすことに成功しました。

体重が減って一時はとても満足できましたが、それまできちんときていた月経がとまってしまいました。また、立ちくらみやめまい、貧血などの症状が起こるようになりました。集中力もなくなり、イライラして家族に当たったり、憂うつになったりすることが多くなりました。

減量に成功したあともしばらくは食事の量を控えていましたが、だんだんと我慢ができなくなって、少しずつお菓子やアイスクリームなどを食べるようになりました。そしてある日突然、食欲がとまらなくなり、約半年後、過食がはじまりました。

過食してしまうときは、ふだん食べないように我慢しているもの、とくにあまいものやごはんなどが食べたくてしょうがありません。いったん食べはじめると頭の中が真っ白になり、お腹がパンパンになるまで食べまくってしまいます。コンビニで3000円くらい買い物をしても、あっというまに食べきってしまうのです。

ゆりさんはあせりました。せっかくがんばってやせたのに、こんなに食べていたら体重がまた元に戻ってしまいます。どうしても体重を増やしたくないゆりさんは、雑誌で摂食障害の記事をみたのをきっかけに、それをまねして過食したあとに吐くようになりました。いつしかそれが習慣となり、最近では吐くことを前提に過食するようになってしまいました。

受診時はほとんど毎日のように過食嘔吐をしていました。食べて吐くのはいつも夜で、それ以外のときは、太りたくないのと、食べだすと止まらなくなるのが怖いので、ほとんど食べません。

最初は家族に隠していましたが、嘔吐がはじまってしばらくすると、すぐにばれてしまいました。家族は心配しましたが、ゆりさんは太りさえしなければそれでいい、と思っていました。でも、ゆりさんの意に反して、吐いているのに体重はだんだん増えていき、イライラ、うつ症状、慢性疲労、冷え、不眠、便秘、湿疹などが悪化し、体調が日に日に悪くなっていきました。朝も起きられず学校も休みがちになり、勉強にも集中できないので、休学することになりました。

今のゆりさんは、食べもののことしか頭にありません。我慢しているから、いつも食べたい。でも過食になってしまうから、食べるのが怖い。そして、太りたくない…‥。

家族も心配し、さすがに自分でもこの状態をなんとかしたい、という気持ちになったゆりさんは、家族のすすめで精神科を受診しました。抗うつ剤をもらい、ほんの少し気分はよくなったような気がしましたが、過食嘔吐は治りませんでした。

家族の方がインターネットで摂食障害について調べているうちに当クリニックを見つけ、受診されました。

【既往歴】

2年以上無月経

【家族歴】

父:高血圧 祖母:糖尿病

【初診時現症】

身長:156cm 体重:50kg  BMI:20・5

【診断】

ゆりさんのデータを見ると、まず貧血が大きな問題であり、体調不良の原因の大きな部分を占めていると考えられました。月経がしばらくないのに貧血なのは、強い栄養失調であるためと考えられます。フェリチンの低値は鉄欠乏があることを意味します。特記すべきは亜鉛の低さでした。亜鉛は食欲のコントロールに深く関係しているミネラルです。GOT・GPTのアンバランスから、ビタミンB群の不足が強いことも示唆されました。

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これらの栄養失調は、脳に「飢餓状態だ!」という信号を送ります。その信号を受けとると、脳は生き延びるために食べものを手に入れようとします。つまり、お腹がすくわけです。このような栄養失調は食欲の冗進をまねき、過食を引き起こす原因となると考えられます。

また、グルコースとグリコアルブミンの低値、遊離脂肪酸の上昇、尿中ケトン体陽性は、低血糖症を強く疑わせるものでした。標準体重の若い女性にしては中性脂肪が高めなのも、低血糖症を疑う所見です。確定診断のため、5時間糖負荷試験をおこないました。

【5時間輝負荷試験結果】

ゆりさんの糖負荷試験の結果は、インスリン過剰分泌を伴う激しい反応性低血糖症でした。ブドウ 糖を飲むことによる血糖値の急激な上昇の後の下降がとても激しく、1時間で60mg/dlも血糖値 が低下しています。また、血糖値が28mg/dlまで下がっていることも驚きです。このようなことが起こると、脳が危険だと判断するため、血糖値を上げるためにアドレナリン・ノルアドレナリンが分泌されます。その結果、自分で自分をコントロールすることができなくなってしまいます。また、低血糖から脳を守るために、「食べろ!」という指令が強烈に脳から発せられます。これらの結果として、過食になると考えられるのです。

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【治療】

食べることに関するゆりさんの問題は、「過食」と「拒食」の両方でした。太りたくないから食べない、でも食べないで我慢しているといずれ我慢も限界となり、過食をしてしまいます。食べることを我慢し続けるかぎり、低血糖になり、そのあと必ず過食になります。この場合、食べることが過食を治す近道なのです。

食事指導として、まず「食べたくなくても食べる」、「過食は我慢しない」ということを指導しました。タン白質と野菜などの、低GI・高タン白・高食物繊維の食品を、食べたくなくても少しずつ、頻繁に食べるように指導しました。これは空腹時問が長びいて低血糖になることを防ぐためです。また過食そのものは、誰でも治療をはじめてすぐにはおさまりません。過食を無理に我慢させることはせず、過食してしまうときにも、あまいものなどではなく、まずタン白質や野菜などの低GI食品を選ぶように指導しました。これは食べたあとの血糖値の急降下を防ぐことがねらいです。どうしてもあまいものを食べたいときには、タン白質や野菜などを食べた後に少量食べるように説明しました。

そして同時に、栄養失調を治すため、プロテイン・ビタミンB群・ヘム鉄・ビタミンC・カルマグ・亜鉛のサプリメントを処方しました。

【経過】

治療開始後1ケ月ほどで過食の回数が減りました。3ケ月後の再検査の時点では、過食嘔吐はすっかりなくなっていました。お腹がすく前に食べることを指導されたことで、「食べていいんだと思い、気持ちが楽になったそうです。最初のうちは少し食べるだけではおさまらず、過食になったりしましたが、だんだん食べる量をコントロールできるようになりました。白米を食べると、そのあとだるくなったり眠くなったり過食したくなるのがわかるので、おかず中心にいろいろなものを食べるようにしています。食べものがおいしい、と久しぶりに思えるようになったそうです。

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貧血も改善し、体調も回復してきました。少し前は、家族と出かけても2時間くらいですぐに疲れて休憩するか、家に帰っていたのに、今では長時間出かけられるようになりました。以前に比べ、精神的に安定してきたためか、「どうしても太ってはいけない」という気持ちはうすれてきました。体重は1〜2kg増えましたが、体成分検査では筋肉が増えていました。まだ体調が不安定なので、もう少し元気になったら、学校に復学したい、と思っているそうです。

血液データもとてもよく改善しています。まだ精神的に不安定な部分もありますので、心理療法を併用し、根気よく治療を続けていくつもりだということです。

 

以上、抜粋終わり

この症例の方のように、

ダイエットを行ってから、

体調を壊される方は多いです。

これはきちんとした知識もなく、

安易に行うことが原因です。

また巷に溢れているダイエット法も、

中途半端な栄養学で、

いい加減なものが多く、

それを実践して身体を壊される方も多いです。

ダイエットとは飢餓状態を作り出すわけですから、

生半可な知識では身体を壊してしまいます。

必ず経験豊富な専門家の指導の下で行ってください。

 

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