今回は同テーマの第2弾です。
著書『なぜあなたは食べすぎてしまうのか 低血糖症』から下記抜粋します。
- 動睦と不安、そしてイライラ -
田代光子さん(仮名)64才
田代さんは、二人のお孫さんをお持ちの主婦です。
田代さんは60才を過ぎたころから、疲れやすく、なにをするにもおっくうになりました。風邪を引きやすくなり、また治るのに時間がかかるようになりました。下痢や軟便が続き、膀胱炎も起こしやすくなりました。膀胱炎から腎孟炎になり、高熱が出て入院したこともあります。
2年前から、動悸と不安の発作が起きるようになりました。動悸の発作は突然起こり、自分ではどうにもなりません。このままでは死ぬのではないかと思い、夜中に救急車で運ばれたことも何度かあります。一度はそのまま入院して、血液検査や心電図、脳波、脳のMRIなど、数々の検査を受けましたが、とくに問題はないといわれました。精神安定剤をもらいましたが、気休めのようにしか感じられませんでした。
去年の9月から胃の調子が悪く、胃カメラをおこなったところ、軽い胃炎がありましたが、胃薬を飲んで症状はよくなりました。
来院時の症状は、つねに手足が冷たく冷えており、疲れやすさと、不安な気持ちがいつもあるというものでした。血圧が不安定で、高くなったり低くなったりします。ときどき手のふるえがあります。気力もわかず、以前は楽しかったお孫さんの世話も、体力が続かないため今は思うようにできなくなりました。また、ちょっとしたことでイライラするので、気持ちも落ち着きません。ご家族の方にいわせると、以前に比べてとても怒りっぽくなり、性格が変わってしまったみたいだ、とのことです。
病院でいろいろな検査をしても原因がわからず、薬を飲んでもよくならないため、困ったご家旗の方が当クリニックを探し、受診されました。
【既往歴】
52才で子宮筋腫のため子宮および両卵巣摘出
【家族歴】
祖母:子宮がん おば:乳がん
【初診時現症】
身長:155cm 体重:45kg 血圧:130/80mmHg
【食事の傾向】
ご主人が腎臓病のためタン白質を制限する食事療法をおこなっており、田代さんもそれに合わせて10年以上タン白質を控えた食事法をしていたそうです。食事の内容は白米やパン、めん類など、炭水化物にかたよったものでした。
【診断と治療】
田代さんの血液データは、ヘモグロビンが基準値を下回っており、明らかな貧血状態でした。また、総タン白6・2より低蛋白血症であり、閉経後であるにもかかわらずフェリチンが低く、鉄欠乏の状態でした。ほかのデータから、ビタミンB群の不足、カルシウム・マグネシウムの不足なども疑われ、コレステロールも低めであり、複合的な栄養失調の状態であると判断されました。ピロリ菌の抗体があり、ペプシノーゲンI/Ⅱ比が1・8と低いことから、ピロリ菌による萎縮性胃炎があると考えられました。
フルクトサミンの低値と食事内容から、低血糖症が疑われましたが、田代さんが希望しなかったため、糖負荷試験はおこないませんでした。
治療のために、低GI・高タン白・高食物繊維の食事指導をおこないました。とくにタン白質をしっかり食べるように指導しました。
また、ピロリ菌による萎縮性胃炎が栄養失調の原因のひとつと考えられたため、抗生物質と制酸剤によるピロリ菌の除菌をおこないました。
そして栄養失調の改善のために、プロテイン・アミノ酸・ビタミンB群・ヘム鉄・ビタミンC.カルシウム・マグネシウムのサプリメントを処方しました。
【経過】
3ケ月後の受診時に、田代さんは、症状が大きく改善したことを教えてくれました。
まず、不安や動悸の発作はほとんど出なくなりました。体力がつき、疲れにくくなったとのことです。立ちくらみやめまいはなくなり、血圧も安定しているようです。イライラや怒りっぽさ、抑うつ症状などの精神的な症状もなくなり、精神的にも落ち着きをとりもどしたそうです。胃腸の調子もよく、下痢をすることもなくなり、以前より食欲が出てきました。お肌にも張りやつやが出て、血色がとてもよくなりました。冷え性はまだありますが、以前に比べるとだいぶ軽くなったとのことです。
貧血が改善し、総タン白や尿素窒素、コレステロール、フェリチンなどはすべて上昇し、栄養状態が改善していることを示しています。グルコース・フルクトサミンの上昇は、低血糖の兆候が改善したことを意味します。また、ピロリ菌抗原は陰性となり、ペプシノーゲンのI/Ⅱ比も上昇し、萎縮性胃炎が改善しています。
以上、抜粋終わり
この症例でも
やはり栄養状態に
問題が見られますね。
この治療の解説は次回にします。
お楽しみに!